パン屋をやめて
英国菓子屋になると言うと
みんなが笑いました。
でも日本橋三越本店様から
「英国展」への出展の
招待があると、、、!
宮島でパン屋を創業した時から、スコーンを焼いていました。
廿日市へ移店するとスコーンの人気がじわじわと出てきました。
レパートリーを増やすために本屋へレシピ本を探しに行くと、英国菓子と紅茶の専門コーナーを見つけました。
その時、スコーンは英国菓子のほんの一部で、もっと奥深い世界があることを初めて知りました。
棚にある本を次々に手に取っては読み漁り、面白くてほとんどの本を買って帰りました。
特に魅了されたのは、どの英国菓子も歴史があって、古いものだと1000年近くも前から作られてきた点(レシピが今と変わっていないところも)と、紅茶文化と切っても切り離せない強い関係がある点でした。
スコーンだけを焼くのはどこか表面的でもったいないと思いました。
試しに本に載っていたケーキやビスケットを作ってみると、ほとんどのお菓子が茶色で見栄えはしないのですが、地味深い味わいでとにかく美味しかったんですね。
それで去年の冬に
パン屋をやめて
英国菓子屋になることを決意しました。
パン屋仲間や菓子職人からずいぶん笑われました。
パンと菓子は似て非なるもので、誰もがすぐに作れるようになるとは思っていませんでした。
しかも世の中の洋菓子といえばフランス菓子が主流で、英国菓子なんてほとんど誰も知りません。
みんなは店がすぐに潰れてしまうと、きっと思っていたにちがいありません。
でもみんなが想像していた通り、今年になって人気のあったカツサンドやたまごサンドに続き、フルーツサンドもやめて英国菓子だけを作り始めると、お客様がどんどん減っていきました。
そんなある日、1通のメールが届きました。
日本橋三越本店「英国展」への出展依頼でした。
日本橋三越本店の担当者の方から、「三越伊勢丹HDの企画するイベントの中で、英国展がダントツ1位なんです。大変ではあると思いますが、広島からぜひ出展してください」と熱いメッセージ。
ご依頼はこの上なく光栄で有り難かったのですが、交通費に滞在費、それに商品を送る配送料も負担になります。
また、準備のためにお店を長く休まなくてはなりません。
なかでも一番の懸念は、3日間の出展で普段の1か月分を製造して東京へ送らなくてはいけないことでした。
随分と悩みましたが、チャレンジしてみることにしました。
今を変えたかったのと、やらないと将来きっと後悔すると思ったからです。
出展して帰ってきたとたん・・・!
慣れない大量製造で失敗による廃棄ロス、台風接近で余計な交通費や滞在費がかかりました。
出展中は毎日寝不足で、お客様が途切れず食事にもトイレにも一度もいけませんでした。
英国展がダントツ1位というのは本当のことでした。
そんな大変な思いはしたのですが、一流のお店や職人さん達と交流出来たり、想像のはるか上をいく三越日本橋本店の皆様のおもてなしに触れることができ、心から出展して良かったと思いました。
広島へ帰ってきて営業を再開すると、もう笑う人は誰もいませんでした。
その代わり、イギリスへ行かれたことのある人達やイギリス好きな人達が、「懐かしい!」「日本にこんな英国菓子を作る
お店があるなんて!」と英国伝統のお菓子を求めて、次第に
遠方からも来てくれるようになっていました。