ノムさん、ウェルシュケーキの国へゆく DAY3
- 直 野村
- 11月14日
- 読了時間: 10分

バスに乗ろうとしてクレジットカード決済がうまくいかないと、ノムさんの後ろに並んでいたおばあちゃんが自分のチケットを使ってと言ってくれました。
列車に備え付けのUSBで充電するのに手間取っていると隣のブースの女の子が床に膝と手をついて手伝ってくれました。
スーパーで買い物をすれば割引セールになるよう手伝ってくれたり、使い勝手の分からないセルフレジで格闘していると店員ではなく警備のおじさんが使い方を教えてくれました。
朝早い移動のためにタクシーをホテルのスタッフに予約してもらうと、パソコンの画面も見ないでノムさんの名前をタクシー会社に伝えてくれました。
あるウェルシュケーキ屋さんは列車の到着時間も伝えていないのに駅を降りたら待ってくれていました。
バスや列車に乗れば、乗客と運転手さんや駅員さんとの会話を楽しみ、日本人のノムさんにも「ありがとう」とか「良い一日を」と気さくに話しかけてくれました。
カーディフ城の前で記念撮影をしていると通勤途中にもかかわらず、地元の人が写真撮影を代わって撮ってくれました。
これはノムさんだから?
いやいや、ノムさんは見た目も動きもけっこう怪しいです。((+_+))
そんな英国菓子屋のOHISAMAノムさんが見てきた、ウェルシュケーキの本場ウェールズを紹介していきますね。
今回はFabulous WelshcakesのJoさんに、お店と工場を案内してもらった時のお話です。
DAY 3
日本を発つ前にBrew Teaの山家さんにお願いして、ウェルシュケーキの名店「Fabulous Welshcakes」のJoさんにぜひ会いたいことを伝えてもらいました。

すぐに連絡してくれてJoさんが快諾してくださったので、山家さんからJoさんのメールアドレスを教えてもらい、何日の何時に会えるのか、お店だけでなく工場も見せてもらえたりするか、などのやり取りをしました。
ただ、8時間(日本が早い)の時差のせいで、メールのチェックと返信が一日に一回みたいなところがあって、わかっちゃいるけどウェールズは遠いわけで。
そんなもどかしさを感じ始めたタイミングで、Joさんからの提案もあってWhatsappでやり取りすることに。
WhatsappというのはLineみたいなもので、あちらの国で知り合った人はみんな使っていました。
それ以来タイムリーなやりとりができるようになり、コミュニケーションがすっごくスムーズになりました。
もし、現地の人とやり取りが必要な方はアプリを入れておくといいかもしれませんね。
ちなみに、このときのメールやWhatsappでのやり取りは今でも消さずにスマホに残しています。

削除するのを忘れたり、めんどくさかったわけじゃありません。
日本にいるときは、「言葉が通じるかなー」「気が合わなかったらどうしよう」なんていい歳をしたノムさんは不安ばかりでしたけど、とにかくJoさんのメッセージは優しい言葉に溢れていて、キャッチボールするたびに不安よりも期待へと変わっていきました。
そんなちょっとした言葉の1つ1つが嬉しくて、記念にとっています。
さて、約束の時間は朝の10時。
地理や交通に不慣れなノムさんのために、Joさんがホテルまで車で迎えに来てくれると言ってくれてお言葉に甘えさせてもらいました。
待ち合わせの時間までちょっとあったので、散歩がてらバスに乗って朝8時にOPENするCardiff Marketへ。

旅や出張に出ると温かい食べ物が無償に恋しくなることはありませんか。
だからといってイギリスのレストランで外食し続けられるほどリッチな出張ではないので、Bakestonesの近くで見かけた食費を節約できそうな店へ出かけたのでありました。
しかしまあそれにしてもこの日もそうなんですが、カーディフバスに乗って地元の人と運転手さんが親しげに話をしているのを見かけるたびに、こういう日常があるウェールズってほんとうに素敵だと思うんです。
幸せってこういうことじゃない?
Cardiff Marketでは、仕入れた魚や野菜を並べたりしていてどの店も開店準備でみんな大忙し。
建物の中をウロウロしていると、テイクアウトもできるEnglish Breakfastを提供する店を発見!

ノムさんがウェルシュケーキ以外で食べたかったイギリスの国民食です。
迷わず注文しました。
このメニューは名前が示す通り、イギリス人にとって超がつくくらい定番のメニューです。
豚の血で作るブラックプディング、目玉焼き、ウィンナーかベーコンなどの肉系、炒めたトマトやマッシュルーム、煮込んだ甘い豆、そしてパンがワンプレートになっています。
味も見た目もぜんぜん違いますけど、感じとしては日本人にとっての味噌汁、ごはん、納豆、卵焼き、魚の塩焼き、漬物、海苔といったところでしょうか(例えになっていない?)。
余談ですけど、乗り継ぎのために立ち寄ったイギリスと関係の深い香港国際空港でも提供されていました。
たしか120香港ドル(約2400円くらい)だったと思います。
円安の免疫ができていなかったノムさんにとっては高すぎたし、どうせなら初めてのEngrish Breakfastは本場のイギリスで食べたかったので、香港では我慢しました。
注文すると、お店の人が目の前でパンや目玉焼きを焼いたり、豆やブラックプディングを温めてくれ始めました。

憧れの食べ物が出来あがっていく様子は見ているだけで楽しく、期待がどんどん膨らんでいきます。
ただちょっと歩き回り過ぎて、支払いを終えたら時計は9時を回っていました。
熱々のEngrish Breakfastを小脇に抱えて大急ぎでホテルへ。

サービスというわけじゃないんでしょうけど、すごいボリュームでしょう。
久しぶりの温かい食事ということもあって、美味しかったですねー。
ブラックプディングや豆の煮ものはいかにも外国の味がしましたが、意外とクセがなくて口に合いました。
ところでノムさんは昭和生まれなのでJoといえば「明日のジョー」しか知りません。
だからJoさんは男性だとばかり思っていたら、まさかの女性でした。
それで一瞬、気づかなかったのですが、Joさんの方はノムさんが日本人だったからすぐに声をかけてくれて、無事に会うことが出来ました。
それにしても外国人は時間にルーズだと言ったのは誰なんだ。
ノムさんは「日本人は人を待たせない」「日本人は時間に正確なのだ」という美徳をアピールする気満々でホテルを出たら、Joさんは約束の時間の10分前にはもう来てくれていました。
車の中でBrew Teaの山家さんから預かった手土産を渡すと、日本での懐かしい思い出に耽るような笑みを浮かべて、とても嬉しそうでした。
まず最初に、ホテル近くの海辺にあるお店を案内してもらいました。
そこは商業施設内にあって、表にあるお店の玄関からではなく、裏口から従業員専用通路を通っていきました。
派手なレッドカーペットやランウェイとかじゃなく、「限られた人」しか行けないちょっと薄暗い「秘密の道」感が好きなノムさんは、歩いている間ずっとワクワクしていました。

お店に入らせてもらうと、各店舗へ配送のお手伝いをしているおじさん、お店で販売と焼き担当のスタッフ、みなさんが明るく気軽に話しかけてくれました。
あまりにもいい人たちばかりなので、帰り際に怪しい壺を買わされるんじゃないかと思ったくらいです(冗談です)。
店を後にするまでずっと楽しかったので、いつもそうしているんだとわかってホッとしました。
あとで案内してもらうCardiff Castle正門前にあるお店もそうなんですが、ウェルシュケーキだけでなく地元の人が作った彫り物や絵、それにウェールズ産の食材がたくさんありました。

ウェールズにはウェルシュケーキ屋さんがいっぱいあります。
ウェルシュケーキはとても古いお菓子なのにレシピがほとんど変わっていないため、どのお店のウェルシュケーキも見た目は一緒になりがちです。
けれどもFabulous Welshcakesは、地元を愛する姿勢と人で差別化されていることがよく伝わってくる店づくりをされていました。
OHISAMAにとって勉強になる部分が非常に多かったですね。
海辺のお店を出た後、車で15分くらいのBarryにある工場を案内してくれました。
工場に入る前、「ここはほんとうにトップシークレットなの」「写真はダメ」と海辺のお店にいる時とは別人のような厳しい目つきで言われました。
だから中の写真はいっさいないので、あらかじめご了承ください。

なんて言っておきながら、Joさんは何から何まで全部教えてくれましたが(*^-^*)
材料、レシピ、混ぜ方、捏ね方、延ばし方、抜き方、焼き方、売り方、もう全部!
びっくりしたのは一日に千枚単位で製造されているのに、スプーンを使ってボウルの中で粉類と卵を混ぜ合わせていたところ。
製造スタッフは女性ばかり5人くらいいらっしゃいましたけど、「この量を手でやるかー」と信じられませんでした。
スプーンで混ぜて粉気がなくなったら手でこねて、体重をかけながら麺棒で延ばします。
こんなに大きなお店なのに、すべて手作業なんて。
ウェルシュケーキの生地は、混ぜ過ぎたりこね過ぎたりすると、外はサクッと中はホロホロの独特の食感が出せないからなんですね。
それで指先の感覚と目で確認しながら生地を作られているそうです。
それは焼きの工程でも同じで、大型のグリドルに丸くくり抜いたウェルシュケーキの生地を100枚ほど乗せ、焼成担当のスタッフが目で焼き色を確認しながらヘラでひっくり返し、つきっきりで焼き続けます。
グリドルというのは調理用の鉄板で、家庭用のフライパンのようなサイズから、お好み焼き屋さんにあるような大型の鉄板テーブルまでいろいろあります。
こちらの工場ではもちろん大きいのです。
「グリドルの温度は何℃ですか?」と質問すると、スタッフのみなさんは誰も答えられません。
代わりに、Joさんが笑いながら「4か5くらい」と教えてくれました。
温度調節がガスコンロについているような「つまみ」になっていて、メモリは1から6まで。
温度がどこにも書いてありません。
そのJoさんでさえ、温度はわからないと言っていました( ̄▽ ̄)
裏を返せば、人の感覚が大事ってことです。
材料のレイジングフラワー(ベーキングパウダー入り)もフレーバーも、そのほとんどがウェールズ産でした。
JoさんがBrew Teaの山家さんへリクエストした日本のお土産が「出汁」だったのは、こういったこだわりと無縁ではないような気がしました。
ちなみにノムさんはお土産がかぶらないように、プレゼントに選んだのは「緑茶」です。
工場見学が終わりに近づくにつれ、OHISAMAの話になりました。
口できちんと説明ができるほどノムさんは英語が達者ではないので、Instagramの画像やリールを見せて笑顔で乗り切ることにしました。
みなさん、やっぱり気になるのはウェルシュケーキで、「フレーバーはなに?」「トッピングしてあるのはなに?」「使ってるのはバター?」「何種類作ってるの?」と逆に質問攻めにあいました。

なかでも抹茶やほうじ茶など日本らしい食材に興味を示してくれ、商品化したら写真を送るとまで言ってくれました。
これには、日本人として誇らしかったです。
それで「教えてもらったウェルシュケーキを日本に帰ったらたくさん作りますね!」と感謝の気持ちを込めて伝えると、「ウェールズでは絶対に売っちゃだめよ」と笑いながら言われました。
ノムさんも、「じゃあ、抹茶やほうじ茶のウェルシュケーキを日本で売っちゃだめだよ」とお願いしました。
なんか、こういう約束っていいよね。

スタッフのみなさんにお礼を言って、Barryの工場を後にしました。
Cardiff Castle前まで車で送ってもらい、「なお(ノムさん)とふみえ(Brew Teaの山家さん)にお土産があるから、あとでお店に来てね」と言われて一旦お別れ。
ノムさんはトイレを我慢していたので、大型ショッピングセンターのセント・デイヴィッズへ一直線。
ウェールズをはじめ、イギリスには公共のトイレがほとんどありません。
トイレットペーパーがないことも少なからずあるそうなので、リュックの中はダイソーで買ったティッシュと除菌シートでパンパンにしていました。
大ピンチの時には、レストランやカフェを利用する代わりにトイレを使わせてもらうといいそうです。
週末に再会したロンドン在住の友人も、店や美術館を出発する際には必ず、「トイレに行っとこうか」と声をかけてくれたのを思い出しました。

お昼過ぎの2時くらいにお店ヘ行くと、工場で作った生地をグリドルで焼いていて、ウェルシュケーキの甘く香ばしい匂いであふれかえっていました。
今日一日のお礼と、日本でウェルシュケーキを広める約束(ウェールズでは売らないことも)と、そしてお土産をたくさん持たせてくれてお別れしたのでありました。

今日も最後まで読んでくださってありがとうございます。
次回はSt DavidsにあるMumGu Welshcakes BakeryのSamさん達との交流のお話です。
DAY1の記事はこちら↓
DAY2の記事はこちら↓
書いている人
ノムさん
広島県廿日市市で「英国菓子と紅茶のある暮らしOHISAMA」で英国生まれの古いお菓子を手づくりしたり、英国製の紅茶を楽しんでもらうお店をしています。

◆SUNDAY MARKET(オンラインストア)


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