第3話「英国には、まだ日本で知られていないお菓子がある」

「ファッジ」って、ご存じですか?
お菓子の名前です。
……と言っても、雑誌の『FUDGE』ではありません(笑)。
Googleで検索しても、雑誌の記事やファッションの情報がたくさん出てきます。
英国菓子のファッジを探すには、検索結果を何ページかめくらなければなりません。
普通のお菓子屋さんで見かけることも、まずありません。
実は、ノムさんも最初から知っていたわけではないんです。
初めて見たのは、大阪のとあるティールームでした。
その次に出会ったのは、英国展で見た英国製のファッジ。
たったそれだけの出会いから、今では自分で作って、お店でお客様に食べていただくようになりました。
ファッジを知っている人が少ないのは、今も変わりません。
でも、最近は試食をしていただいたり、お店のメニューにファッジを付けたりするようにしています。
すると、あちこちから聞こえてくるんです。
「おいしいー!」
この声を聞くと、うれしくなります。
だって、知られていないだけで、おいしいと思ってくれる人はいるんですから。
オンラインストアのお客様の中には、一緒にファッジを広めようと、
「布教活動がんばります!」
と言ってくださる方までいます(笑)。
ありがたいことです。
でも、裏を返せば、それだけまだ知られていないということ。
英国には、ファッジのほかにも、日本ではあまり知られていないお菓子がたくさんあります。
最初にファッジを見たとき、実はノムさんは買いませんでした。
もっと正直に言うと、高くて買えませんでした。
缶に入っていて、中身が見えない。
味もわからない。
それなのに、千円以上もしたからです。
その後、英国展で2つのブランドが英国製のファッジを販売しているのを見ました。
これはきっと、英国では有名なお菓子なんだろう。
そう思ったノムさんは、英国展が終わって広島に帰ると、さっそく自分で作ってみました。
すると、とんでもなくおいしいものができてしまったんです。
家族に食べてもらうと、大好評。
たまたま居合わせたお客様にも試食していただきました。
返ってきたのは、悲鳴のような「おいしいー!」の声。
これは、いけるかもしれない。
そう思ったノムさんは、失敗を重ねながら、ファッジの製法を少しずつ自分のものにしていきました。
ところが、ひとつ問題がありました。
そもそも、ファッジを知っている人がほとんどいないんです。
おいしいと思ってもらえる。
でも知らなければ、食べてもらうきっかけさえありません。
そこで、まずは食べてもらえるように、いろいろ工夫することにしました。
2粒入りの小袋を作って、初めてでも買いやすくする。
お店では試食を増やし、メニューには必ずファッジを添える。
オンラインストアでは、初めてのお客様にサンプルをお届けする。
そして、ファッジの味や食べ方、英国で生まれたお菓子の物語を、ブログやメルマガで少しずつ発信するようにもしていきました。
大企業のようにCMをバンバン流して一気に周知させることはできませんから、できることをひとつずつ広島からこつこつ頑張ってやっていくしかないんですね。
でも、ノムさんが広めたいのは、ファッジだけではありません。
英国には、まだ日本で知られていないお菓子が、たくさんあるんです。
たとえばウェールズの伝統菓子、ウェルシュケーキ。
その名のとおり、ウェールズのお菓子です。
ところが、英国の中でもウェールズを離れると、見かけることはほとんどありません。
ウェールズには、ウェルシュケーキの専門店があります。
観光客が買いに来るのはもちろんですが、地元の人たちも行列して買っていくんです。
しかも、その枚数がすごい(笑)。
英国展では、日本のお客様が1枚ずつ買っていくことも多いのですが、本場ではダース単位でまとめ買いする地元の人が多いのだとか。
これは、英国展でウェルシュケーキを販売していたシェフから聞いた話です。
そして、実際にウェールズへ行ってみると……本当にそうでした。
目の前で、地元の人たちがものすごい枚数を買っていくんです(笑)。
観光客向けの珍しいお菓子というだけではありません。
地元の人たちが、日々のおやつとして愛している。
ノムさんはこういうところが好きなんよね。
英国には、そんなお菓子がほかにもあります。
たとえば、湖水地方のカンブリア州にあるグラスミア村のジンジャーブレッド。
オーツ麦と小麦にジンジャーを利かせて焼いた、素朴な甘いお菓子です。
……と聞いただけでは、「ふーん」で終わってしまうでしょうね(笑)。
でも、100年以上の歴史があると聞いたら、ちょっと気になりませんか。
長い間、その土地で作られ、そして受け継がれてきたお菓子なんです。
あるいはヨークシャー地方には、ファットラスカルというお菓子があります。
19世紀頃から作られているとされるお菓子で、ドライフルーツなどを練り込んだ生地の上に、砂糖漬けのサクランボや皮を剥いたアーモンドを飾ります。
これが、なかなか独特な姿をしているんです。
スコットランドのダンディーが発祥のダンディーケーキもそう。
表面を皮剥きアーモンドで埋め尽くした姿が特徴です。
どちらも、見た目にそのお菓子らしさがあります。
流行に合わせて姿を変えるのではなく、昔からの形を受け継いでいる。
そんなところも、英国菓子の魅力だと思います。
もちろん、すべてのお菓子が昔のままというわけではありません。
それでも、長い時間をかけて受け継がれてきた味や姿が、今も暮らしの中に残っている。
英国菓子を知るということは、そんな土地の暮らしや歴史に触れることでもあるんです。
楽しくなってきたでしょう?
書いている人 ノムさん
広島生まれ。英国菓子と紅茶のある暮らしOHISAMA代表。
公務員の家庭に育ち、大学を卒業後は食品会社に就職。一念発起して会社を退職し、宮島でパン屋を創業したものの繁忙期と閑散期のギャップから体調を崩し僅か5年で離島。その後、業種を変えながら再起を図るもうまくいかず、借金が2,500万円まで膨れ上がる。
これが最後の挑戦と覚悟を決め、安定した人気のスコーンを深堀りしていくことに。すると、その原点であるスコットランドのスクーン城にたどり着き、そこから英国菓子に興味が広がっていく。何世紀も変わらないレシピや伝統といった神秘性にハマり、店では全然売れなかったがとにかく作り続けて、売れ残ったものを食べる日々を過ごす。
そんなある日、東京の英国展に招待されてから人生が大きく動き始める。広島でも英国菓子が売れ始め、中でもファッジは借金を完済できるようになるまで経営の柱に成長。今では英国へファッジの取材へ行ったり、ファッジの歴史を調べることが大きな生きがいになっている。




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